3D都市データが変える
ぼくたちが「はたらく」日々
「3D都市データ」が日々をラディカルに変えていくなかで、
そこに生きる人々の「毎日」はどう変わるのか?
その答えは、わたしたちの日常の多くを「働く」ことが占めていることに見出せそうだ。
社会の「働き方」において、3D都市データはどのようなイノヴェイションを起こしうるのか。
「『はたらく』を面白くするビジネスSNS」を展開する
ウォンテッドリー株式会社CEOの仲暁子に尋ねた。
INTERVIEW
:仲暁子
――オフィスで、あるいは街頭で、わたしたちが「はたらく」日々に、3D都市データはどのような変化をもたらしてくれるのかを伺えられればと思います。この3D都市データのプロジェクトのことを聞いたとき、「はたらく」あり方を考えつづけている仲さんは、どういう可能性を感じましたか。
3D都市データと聞いて、自分の専門分野で最も汎用性を感じたのは、スマートフォンで写真を撮ったときに自動的に付随してくるジオタグ(地理情報)との連携ですね。ここに“高さ”のデータが加わってくると、ビジネスピープルの日常にとって、便利かなと感じます。
――なるほど、具体的にはどのような利活用が考えられるのでしょうか。
例えば、わたしたちはいま、「Wantedly People」というアプリを提供しています。これは交換した名刺を撮影すれば、人工知能が画像情報・文字情報をリアルタイムで解析し、即時データ化して管理できるというものなんですね。
こうした名刺情報に3D都市データが結びついてくるとどうなるか。日付とジオタグ――しかも「○ビルの何階」といった“高さ”まで関係づけられれば、この人はあの日あの場所で会った人だ、という自分の働き方や人的なネットワークが街のなかにマッピングされ、一発でわかるようになっていきます。同じビルやホテルで会議が重なったあとに名刺を見ても、誰が誰だかわからないということも減ってくるでしょう。わざわざ名詞の裏に日時と場所を書き込むことはなくなりますよね(笑)。名刺一枚一枚に対して、いわば立体的な付加情報が紐づけられていくわけで、ビジネスにおけるアドバンテージに繋がっていくのではないかと思います。
――あちらこちらに動き回る人にとっては、とても便利ですね。
ユーザーによるデータ入力が行われることで、3D都市データの側の精度もどんどん上がっていくことになります。Google マップは、みんなが毎日検索をかけることでデータがどんどん集まってくるところがすごいわけで、そうした大規模なプラットフォームに、今回の3D都市データのプロジェクトが成長していければいいのではないでしょうか。
その上で言うと、高さも含めたジオタグが自動的に紐づけられた写真=情報という考え方は、インターネット上のデータサービスにおいて個人の“データ入力”のあり方が変わってきているという、状況の変化に基づいたものでもあります。これまでインターネット上の情報入力は、基本的にキーボード中心の文字情報で行われてきました。
しかし近年では、それこそ画像や声、センサーなど、文字によらない情報の入力が容易になってきました。当たり前の話ですが、データというものは入力するときが一番大変なんです。せっかく名刺を撮影しても、それに自分で文字情報を付け加えなくてはいけなかったら手間ですよね(笑)。自動的にジオタグが付加情報として紐づけられ、その情報がそのまま3D都市データ上で活きるからこそ意味があるわけなんです。
未来都市の設計
――オープンデータとしての3D都市データの利便性が認識されれば、その利用=自然なデータ入力も、より促進されていきますよね。その他に、「はたらく」という局面で3D都市データが役立ちそうな場面はありますでしょうか。
先ほどの名刺の例に比べればやや狭い利活用になるかもしれませんが、新しくオフィスを設けたいというときに、日当たりや風通しといった情報も結びつけることができる3D都市データは役に立ちそうですよね。既存のマップサーヴィスでも、目の前の道路から見たビルの外観や景観などはチェックできますが、実際にそのビルのある階にオフィスを構えたらどうなるか、というシミュレーションが非常に容易になるでしょうから。
オープンデータを引っ張ってきて社内のクローズドなデータとして活用すれば、社員のIDカードと結びつけて、人の集まり方を見て増築の参考にすることもできるかもしれません。あるいは、いちいち会議室が空いているかどうか確認しなくても、部屋から人がいなくなったら自動的に空室であることがシステム上でわかるようにしたり、ということもできそうですね。人がどこまでトラッキング(追跡)されることを許容するかという問題はありますが、ひとつの会社のなかでみんなが同意したならば、クローズされたデータとして活用することはありえると思います。
これをさらに大規模化させれば、たとえばデンマーク・コペンハーゲン出身で、ニューヨークでも活躍している建築家ビャルケ・インゲルスのヴィジョンのような、いわば未来都市の設計にも転用できるでしょう。Googleの新しい本社ビルの計画も手掛けている人物ですが、彼の建築は、とてもスタイリッシュでハイテクノロジーな構造でありながら、憩いの場である中庭も用意されている、といったものです。こうしたプロジェクトでも、3D都市データは生きてきそうですよね。
移動のエコ化
――ミクロからマクロまで、3D都市データはわたしたちがはたらく“環境”そのものを変えていく可能性があるわけですね。
もっと身近な例でいえば、「会社の3km以内に住めば、社員に補助を出す」というようなケースでも、社員の側は住処を探すのに3D都市データを使えるはずです。なぜなら、3D都市データは高さの情報、すなわち都市の「勾配」を示してくれるわけで、3km以内ではあるけど歩いたら坂だらけで大変だった…ということを防いでくれるでしょう。
また労働にかんする「移動」が今後、よりエコ化していくであろうことを考えると、3D都市データはやはりありがたいものになるかもしれません。たとえば近年、宅配便を人力の自転車で配送するサーヴィスが増えてきていますよね。ああいったエコなビジネスは今後も注目されていくでしょうし、はたらく日々における「移動」のエコ化も考えられていくかもしれません。そうした局面で、勾配のない楽なルートが可視化される3D都市データは、可能性を秘めているのではないでしょうか。
もちろん、タクシーをはじめとした自動車でも、3D都市データは有用であるはずです。ただ、よりフィジカルな移動においてこそ、勾配の情報を伝えてくれる3D都市データは効くのでは、とも思います。いわば“筋肉を使う”移動ですね(笑)。
――労働において、生身の身体にかかる負荷が軽減されていくというのは魅力的ですね。
いずれにしても、オープンになっている3D都市データを、わたしたち市民の側が生の状態で活用する、という局面は少ないと思うんです。データの整備自体は広くあまねく、一方で、その利活用は、それぞれのセグメントで愛好されているサーヴィスと組んで考えていく――人々がいま使っているサーヴィスに付加価値を与えていく、というのが、わかりやすい筋道だと感じます。そのなかで、わたしたちの「働き方」が、より楽しくスマートになっていけばいいですね。
仲暁子 | AKIKO NAKA
1984年生まれ。京都大学経済学部卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。退職後、Facebook Japanに初期メンバーとして参画。2010年9月、現ウォンテッドリーを設立し、Facebookを活用したビジネスSNS『Wantedly』を開発。2012年2月にサービスを公式リリース。趣味は面白いものを創る活動。「ジョジョの奇妙な冒険」と岡崎京子、庵野秀明監督が好き。世の中をより面白くするプロダクト作成に日々没頭している。