SCOPE

6人のイノヴェイターが見据える
3D都市データの可能性

2017年2月、3月に六本木ヒルズで開催された「Media Ambition Tokyo」。
3月11日に行われたトークセッション「3D City Experience / 3D都市データの可能性とあり方」では、
“地図“の専門家から、法律家まで、6人のイノヴェイターが集結した。
3D都市データの利活用を考えるパネルディスカッションで語られたこととは。

PHOTOGRAPHS BY ICHIRO MISHIMA
TEXT BY FUMIHISA MIYATA

SCOPE #2

TALK SESSION #1
:Media Ambition Tokyo

2017年の2〜3月にかけて行われた、テクノロジーの祭典「Media Ambition Tokyo」。3月11日に行われたトークセッション「3D City Experience / 3D都市データの可能性とあり方」では、ライゾマティクス代表の齋藤精一をはじめ、水野祐(シティライツ法律事務所)、瀬戸寿一(東京大学空間情報科学研究センター)、脇田真司(株式会社パスコ 事業推進本部)、齊藤瑞希(経済産業省サービス政策課)、小柴恵一(公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 イノベーション推進準備室 企画調整担当課長)という6名が集まり、多彩な専門家とともに、3D都市データの可能性を探る場となった。

3D都市データによる
地方創生

齋藤精一(以下、齋藤精) 3D都市データの作成とその利用とが、同時並行で容易になってきていますよね。地図作成のエキスパートであるパスコ・脇田さんは、こうした簡便性をどのように捉えていらっしゃいますか。

脇田真司 わたしたちは、航空写真を撮影し、それを基に地図作成を行ってきた会社です。いままでは2次元の地図でしたがテクノロジーの進歩によって高さ情報を取得できるようになり、簡単に3次元データが作成できるようになりました。そのうえで様々なシミュレーションも行えるようになってきています。たとえば最近はドローンが注目されていますが、そのドローンをどこに飛ばしたらいいかを検討するのに、3次元都市データは必須です。つまり、どこをどのように飛ばせば安全なのかを把握するのに、高さ情報のない二次元データでは不可能なのです。

ほかにも、防災やセキュリティといった分野以外でデータの精度が上がっていけば、新しく店を開きたいという人に対して「このエリアではこういう属性の人が集まりやすい」「この場所だと車でアクセスしやすい」と検討するためのデータを簡単に提供できます。東京に限らず、全国の各都市でも地域活性化のために応用できる、そんな広がりを3次元都市データは持っていると思います。

瀬戸寿一 ぼくが立命館大学で行っていた共同研究のひとつに、京都市内の建築物の高さや地形の起伏といった3D都市データを集約し、「京都の五山送り火は、市内のどの地点からよく見えるのか」をシミュレーションしたものがあります。観光客のみなさんにとってもせっかく見にやってきたのですから、5つある送り火を、できるだけ多く眺めたいわけですよね。

そこで実際に詳細な建物や地形データを基に分析してみると、たとえば京都御所の付近だったら、視界のなかでうまく建物が重ならず多くの送り火が見えるだとか、北山あたりは高いビルが少なく山も近くて見えやすいといった経験に頼っていたことがデータとしてわかってくるわけです。ただこれも、緻密なデータがあるからこそ現実に近いシミュレーションができるわけです。一刻もはやい詳細なデータの統括的な整備と流通に期待したいところですね。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックが
カギとなる

齋藤精 2020年の東京オリンピックで、聖火台点火の際にも使えそうですよね。どれだけの人が一緒に、一斉にあの聖火を見ることができるのか。そういったシミュレーションに役立てられそうです。マラソンコースでも、どれだけの人がそれぞれの地点で観戦できるのか考えられそうですし、用途は限りないですね。

小柴恵一 東京2020大会の際には、既にある競技会場の交通であっても、大会ならではのオペレーションを考えていかなければなりません。たとえばバスケットボール競技は「さいたまスーパーアリーナ」で行われる予定ですが、入場時と退場時では、使用する駅やその会場との動線を変える必要があるかもしれない。もちろんテストイベントも行いますから実地検証もできるわけですが、それよりも以前にこういった3D都市データを用いてシミュレーションしていく余地はありそうです。

そして、国内外から障がいのある方がたくさんいらっしゃるということも考えなければなりません。東京はアクセシビリティに優れていると言われてはいますが、それでも地下は入り組んでいて、ちょっとした段差でも乗り越えられない場合もあります。「どのルートを通ればいいのか?」をその人それぞれに合わせてアクセシビリティ情報を提供できるようなマップをつくっていきたいですね。

齊藤瑞希(以下、齊藤瑞) 2020年に向け、3D都市データの秘められた可能性を最大限発揮させることで、後世に多くの素晴らしいレガシーを残せるのではないかと考えています。3D都市データはARやVRのインフラにもなりえ、より都市がインタラクティブになっていくことを期待しています。また、2020年のパラリンピックは、初めての同一都市・2回目の開催ですので、残すべきレガシーとして高齢者や障がい者により優しい都市を築くことも重要だと思っています。3D都市データを活用し、あらゆる方々が過ごしやすく、一人ひとりが楽しめる都市にできたらいいですね。

著作権の視点から
起こりうる議論

齋藤精 近年では、スマートフォンで撮った写真から、フリーソフトで3D都市データが作成できる、つまりは特別な技術を持たなくても、誰でも3D都市データをつくれるようになってきました。大勢で写真を撮影してつくった3D都市データも続々現れてくるはずですが、これは誰のものなのか、という議論も同時に立ち上がってきそうです。

水野祐 一般人が撮影した写真にも著作権が発生しうるので、大勢で撮った写真からつくられた3D都市データにも、理論上は著作権が発生しえます。そして大勢で撮影した写真から3D都市データが生成される場合には、その著作権は共有されている状態になると思います。

ただ、その全員の同意がないと利用できないとなってしまうとせっかく作成された3D都市データが使いづらいものになってしまう。そのような事態になることを防ぐために、そもそもデータをつくるときに、最終的なデータの利用条件を定めておき、それに同意してもらったうえで、データを誰もが自由に利用しやすい形でプラットフォーム上に集約していくことが重要になります。

齋藤精 3D都市データの作成から利用をスムーズに繋ぐプラットフォームを形成していければいいですね。

齋藤精一 | SEIICHI SAITO
ライゾマティクス代表
瀬戸寿一 | SETO TOSHIKAZU
東京大学空間情報科学研究センター特任講師
齊藤瑞希 | MIZUKI SAITO
経済産業省 サービス政策課
小柴恵一 | KEIICHI KOSHIBA
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 イノベーション推進室 A&V企画担当部長
脇田真司 | ATSUSHI WAKITA
株式会社パスコ 事業推進本部
水野祐 | TASUKU MIZUNO
シティライツ法律事務所