国/行政での事例
行政主導のもと、3D都市データを管理・公開する動きが世界に広がっている。
様々な都市データを3D都市データ上に統合していく事で見える未来とは何か。
CASE#1 : シンガポール
都市を構成するあらゆる情報にアクセス可能
国土全体の719.1 km²(参考:東京23区は619 km²)の巨大な3Dモデルを構築し、都市を構成する多様な情報とリンクさせたプラットフォームをつくるプロジェクト。予算は7300万シンガポールドル(約60億円)。ユーザーはマルチデバイス対応の3Dマップ上から、地形データのみならず、都市を構成するさまざまな要素に付随する情報にアクセスできる。たとえば建築のサイズ/構造/材質や日照時間、駐車場の台数や植栽の本数などである。この都市国家に混在している3D都市モデルのデータや、既存の地図情報システムの統合プラットフォームとして機能すると同時に、政府のみならず国民や居住者、企業、学術・研究団体にも解放される。これにより、建設計画や都市計画、避難計画などのシミュレーションから、インフラやエネルギーの管理まで、産官学をまたいだ幅広い活用が見込まれる。目標とされているのは、変化し続ける都市と併走するようなプラットフォームである。具体的には、サイクリングコース選びといった個人の利用から、交通インフラのバリアフリー化や持続可能な都市環境づくりなど公共事業などの利用が想定されている。
都市と”併走する”プラットフォーム
さらに、こうした仮想モデル化と情報の「見える化」によって初めて生まれてくる、より革新的な研究開発にも期待が寄せられる。システムはフランスのダッソー・システムズ社の「3DEXPERIENCE® City」がベース。公開は2018年を予定しており、段階的に多様な情報を取り込んでいく可能性も示されている。たとえば2D資料としての図面や写真、書類など、また都市の生きた情報である交通情報や天候情報、監視カメラやIoTデバイスからの情報などである。
プロジェクトデータ
- :2018年に公開予定
:シンガポール国立研究財団(NRF)、シンガポール土地管理局(SLA)、情報通信開発庁(IDA)
:https://www.nrf.gov.sg/programmes/virtual-singapore
CASE#2 : ベルリン
市のオープンデータ・イニシアティブの一環として
ベルリン市域892km²の建物、約55万棟を上空から撮影し、屋根部分をレーザーで計測。テクスチャリングを施した3D都市モデルを構築した。うち約200棟の建造物は詳細モデル化し、さらに6件は内部も再現(オリンピック・スタジアム、ソニー・センター、国会議事堂、DZ銀行、オストクロイツ駅、ベルリン中央駅)。この3Dデータを市当局のオープンデータ・イニシアティブの一環として、ウェブベースのポータルサイトに保存した。プロジェクトはまず、このマップを導入した2D/3D地図システム「Berlin Economic Atlas」をインターネット上で公開(2012年)。これは都市のデータを、地域における各種の社会・経済情報と共に閲覧できるマップである。たとえば、空きのある商業不動産について、リアルな街並みや交通情報などと共にリサーチできる。
市は続けて、モバイル端末用の無料地図アプリ「smartMap Berlin」(2013年)もリリース。さらに2015年には3Dモデルをオープンデータ化し、個別の建物か9km²単位の区画データを指定したうえで、無料でダウンロードして活用できるようにした。
データ形式は8種類から選択できる
データ形式はオリジナルのCityGMLをはじめ、計8種から選択可能。建物などのテクスチャーデータの有無も選べる。利用者としてはデジタル/テクノロジー系企業や科学研究機関を想定。欧州における経済/文化の要所としてのベルリンの活力向上に加え、デジタル革新都市としての先駆的役割を強化する意図が見える。システムは、virtualcitySYSTEMS社の「virtualcityMAP」をベースにしていると見られる。
プロジェクトデータ
- :2015年に公開(ダウンロードシステム)
:ベルリン市政府経済・技術・研究局およびベルリン・パートナー・フォー・ビジネス・アンド・テクノロジー
:http://www.businesslocationcenter.de/en/berlin-economic-atlas/the-project
CASE#3 : ヘルシンキ
リアリティ・メッシュモデルを無料で公開
1980年代から取り組んできた市内の建築の3Dモデル化の試行錯誤を経て、北欧の都市では初めて市内全域を含む500km²超の3D都市情報モデルを作成した。3Dモデルは大きく2種に分かれ、ひとつはスマートシティ情報モデル、もうひとつは写真を取り込んで見やすくしたリアリティ・メッシュモデルである。いずれも過去10年間に開発された最新の測量、モデリング、都市情報モデルの手法に基づいたもので、オープンデータとして公開された。これらのモデルは都市の分析と視覚化を可能にするのもで、多様な目的に利用できると考えられている。たとえば、代替エネルギー源や温室効果ガス排出の調査、交通による環境への負荷分析などである。さらに企業のビジネスや観光などのサーヴィス、消防などの公共事業、ナビゲーションシステムや通信ネットワーク建設、ビル管理などのインフラ、都市計画などへの利用も想定されている。
具体的な複数のプロジェクトでの活用を検討
すでに複数の試験プロジェクトで活用されており、たとえば「ヘルシンキ市の太陽エネルギーの利用可能量」では、市内の建物の屋根および壁における太陽発電設備の設置可能性が分析されている。3D都市情報モデルはCityGMLがベースで、3Dリアリティ・メッシュモデルは航空写真を元にコンピュータ処理して生成された。モデリング作業には多数のオープンソースのコードやアプリケーションが用いられている。3DマップはvirtualcitySYSTEMS社の「virtualcityMAP」 がベースだ。メッシュモデルはOBJおよび3MX形式でダウンロード可能。ヘルシンキ市によれば、3Dリアリティ・メッシュモデルをオープンデータとして無料公開した都市は世界でも初だという。