SCOPE

WeWorkが描く
新しい不動産のかたち

世界各44カ国へ広がるシェアオフィスWeWork。
WeWrokの拡大には、テクノロジーと不動産の深い関わりがある。
BIMでビルごと3DスキャンするWeWorkが、もし3D都市データを手にしたら
どんなクリエイティヴが生まれるだろうか。
建築家の豊田啓介が日本〜上海間のSkypeインタヴューを敢行、
WeWorkのアジア進出における責任者であるカイル・バーカーに話を訊いた。

INTERVIEW BY KEISUKE TOYODA
PHOTOGRAPHS BY ICHIRO MISHIMA

SCOPE #4

豊田啓介×カイル・バーカー(WeWork)対談

クリエイターの
コミュニティを構築

豊田啓介(以下、豊田) WeWorkはいま米国で絶大な人気を誇っていますが、日本のオーディエンスにとっては、まだまだ耳慣れないというのが実情です。

カイル・バーカー(以下、バーカー) WeWorkは、クリエイターの”コミュニティ”として機能しています。メンバーが大好きなことをできるようにすること、そして、生活ではなく「ライフ」、すなわち「人生をクリエイトすること」に注力しています。フリーランサーや小規模ビジネスの経営者、起業家から大企業に至るまで、自分の好きなプロジェクトに取り組んでいるエネルギッシュな人たちが対象です。

わたしたちが最初に手がけたのはニューヨークのビルです。そこから急成長し、西海岸のサンフランシスコとLAにオープンしました。それから全米に展開し、現在では世界44都市に広がっています。

豊田: アジアでも展開しているんですよね。

バーカー: そうですね。最初は上海で、2016年7月にオープンしました。そこから拡大を続けています。上海には現在4カ所で、北京でも計画していて、ゆくゆくはアジア全域に広げたいですね。現在はシドニーに2カ所、香港にも2カ所ビルがあります。

豊田: 日本進出もあるのではないかという噂が出回っていますが。

バーカー: 現時点ではなんとも言えませんが、実現したいですね。

周囲に影響を受け、
自分もがんばろうと思える空間に

豊田: WeWorkはデジタルやビジネスという文脈で、都市の文化的価値を取り扱っている点がユニークだと感じています。ビル全体を購入すること(または賃貸すること)によって、倉庫のようなレンガ造りの建物に文化的な価値を与えている。実際、WeWorkはBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を使うテックチームが社内にあり、ある意味文化的価値とビジネスヴァリュー、そして数字的な遊びを組み合わせて新たなソリューションをつくっています。どのようにして文化的価値と組み合わせ、ビジネスにしているのでしょうか?

バーカー: まさにその通りで、わたしたちは「カルチャーセンター」や「コミュニティセンター」としてビルをとらえています。メンバーにとってアドヴァンテージになるような物件、メンバー同士が一体感を生み出せるような物件を探しているのです。

たいてい、ロケーションを決めたら、吹き抜けや広い場所などの共同エリアに最適で面白そうビルに焦点を絞ります。「メンバーの交流を増やせるような場所」というのが物件の検討基準ですね。

場所を決めたら、まずは空間デザインでメンバーの交流を増やす方法を考えます。これには、シンプルさが必要だと思っています。例えば、アメニティスペースを1カ所に集約することで、共通エリアに足を運ぶ回数を増やせます。その際、ガラス張りのフロントを通るようにデザインすることで、より多くのメンバーとの視覚による交流が増えます。

奥に行けば、よりプライヴェートな半個室があって、メンバー同士の視覚的な交流はなくなります。ホテルの部屋に近い感じですね。でもわたしたちは、他のメンバーが情熱を傾ける姿に刺激を受けて、自分もがんばろうと元気をもらえるような、もっとオープンでコラボレーティヴな場をつくりたいんです。

わたしたちがテクノロジーをどう活用しているかというと、ずいぶん前からBIMを取り入れています。これを最大限利用して、基本的にヴァーチャルリアリティで構築し、フィジカルリアリティで構築する前にテストをします。いまは、3D CADで形状を作成するパラメトリックモデリングで組み込んだデータのおかげで可能になりました。

古いビルこそ
3Dでスキャンすべき

豊田: WeWorkが持つ物件は、必ずしも古いビルである必要はないですか?

バーカー: 新しいビルと古いビルの割合はほぼ半々ですね。ひとつは「キャラクタービル」と呼んでいる古い物件で、歴史と骨格があるので、とても良い雰囲気が出ます。もうひとつは「クラスA」と呼ぶ新しいビルです。正直「クラスA」は設計しづらい部分があり、新しいだけに、雰囲気と文化をわたしたち自身でつくり出さなければなりません。

豊田: 古いビルの場合は正確な図面がなかったりと、一筋縄ではいかないこともありますよね。そういう場合、WeWorkはスペース全体をスキャンして、施工者に提供したりしているんですよね。

バーカー: 柱が正確に図面に描かれていない古いビルほど、テクノロジーが重要なんです。はじめに、3Dカメラを持ったチームがビルに入り、デザイナーのために、ヴィジュアル面からスペースを記録していきます。そのスキャン結果を見ながら、既存スペースのポイントクラウドを重ね合わせ、面の場所、既存の壁の場所、骨組みの場所を把握します。そうすることで、現場の予期せぬ状況で工事が遅れたりするような無駄や間違いが起こらないようにするんです。

豊田: 社内にそういうチームがあるんですか?

バーカー: はい。現在はそのプロセスを実行し、3Dモデルにマッピングしてデータを利用し、分析するスタッフが社内にあり、マシンもそろっています。今後の展開のスピード次第では、必要とあらばアウトソーシングも考えるつもりです。現地で必要なときにそれらのマシンをどうしたら入手できるのかどうか、物流的な側面も含めて検討しています。

また、素晴らしいことに、そのデータはデザインサイドに存在していて、離れた場所からでもコラボレーションできます。つまり、スキャンチームとデザイナーが異なる場所にいても、あたかも一緒にビルの中を歩いているような感覚で状況を理解できるんです。ヴァーチャルビルによって、干渉物がないことを確認したり、ビルの構造やスペース内の障害物を正しく考慮に入れることができます。

わたしたちはスペースをスキャンすることで正確な寸法を把握しています。そのため、必要な素材の量が正確に把握できているため、コスト削減にもなりますし、決断も早いです。しかも、デザインプロセスの非常に初期の段階でそれが予測できるのです。

3D都市データで
光をクリエイトする

豊田: 3D都市データをもし手にした場合、WeWorkはどのようなアプローチをしますか? つまり、詳細に及ぶデータで、時間もそんなにかからない。そんな3Dデータを扱えるシステムがあったら、どのように利用したいと思いますか?

バーカー: そうですね。わたしたちの仕事の大半は、「ビルがあること」が大前提です。ですから、周りのビルの高さや光の入り方など、ビル周辺の状況も考慮します。スペースにどれだけの光を取り込めるか、どの程度床まで光が差し込むのか、メンバーにはどう映るのか、「光」を調査する必要があります。いまはそれをアナログな手法でやっていて、GoogleマップとGoogleアースのデータから得られるものを利用しています。

ただ、それはものすごく厳密というわけではないので、もっと正確なデータがあったら、空間デザインに大きく影響するでしょうね。3D都市データを使えば、フロアにかかる熱負荷を具体的に予測して、空調を最適にチューニングできるでしょう。これはかなりのアドヴァンテージになるはずです。

そのデータにはかなりのポテンシャルがあるように思います。それだけでなく、3D都市データに含まれるメタデータによっては、どんな人が周囲にいて、どの程度親しくしていて、メンバーがアクセスできる範囲にどんなアメニティがあるのか、といった情報も手に入るでしょう。それらはWeWorkのビジネスにとって非常に重要な情報で、その解像度が高ければ高いほど、高度なレベルでのスペースの分析/提供ができるようになり、メンバーにとってのメリットも大きくなります。

豊田: WeWorkがGoogleアースのような3Dマッピングを使うことは想像できますが、ある量が扱えるようになるとメタデータに文化的価値を追加するものになるのではないでしょうか。

バーカー: 3D都市データを使うことで、コミュニティのメンバーが増え、近隣や近隣で行われるイヴェントに影響を与えるようになること、そしてビルだけでないさまざまなことを活性化して行くのは間違いないでしょうね。

カイル・バーカー | Kyle Barker

WeWorkの国際開発責任者。アジア太平洋地域のすべての市場におけるすべての設計、建設、プロジェクト管理を担当。建築デザインと建設の背景を持つ不動産開発のスペシャリスト。以前はシアトル、ボストン、ニューヨークの建築事務所に勤務し、シラキュース大学で建築学士を取得。現在は上海在住。

豊田啓介 | KEISUKE TOYODA

建築家。東京大学工学部建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所を経て、コロンビア大学建築学部修士課程修了。アメリカのSHoP Architectsを経て、2007年より東京と台北をベースに建築デザイン事務所noizを蔡佳萱と共同主宰。コンピューテーショナルデザインを積極的に取り入れた制作・研究活動を、プロダクトから都市まで分野を横断しながら展開している。 noizarchitects.com
2017より建築・都市xテックのコンサルティグプラットフォームgluonも共同主催。gluon.tokyo